もう一つ論点が甘いのよねぇ

http://www.ipsj.or.jp/01kyotsu/workshop/winny/winny_workshop.html
Winny事件を契機に情報処理技術の発展と社会的利益について考えるワークショップ」に行ってきたわ。
トータルで見ると「あんなもんかしら」って感じね。少し個別に思い出してみるわ。


まず始めに宇田 隆哉(東京工科大学)さんの「P2P技術の動向とWinnyの機能と構成」。技術用件の解説なので、まぁ「こんなもん」って感じかしら。以降の議論の土台になっている部分で、まぁ普通に楽しめたわ。
技術的に突込みがあまい部分があって、実際に質問でそのあたりを突かれてたみたいなんですけれども。今回のワークショップの主旨からして、別にそこまで踏み込んだ技術説明が必要だとはあたしは思わなかったわ。だから、全体を通して普通に「よかった」というのがあたしの感想よ。


次に岡村 耕二(九州大学)さんの「ネットワーク管理者からみたP2P技術」。なかなか良かったわ。非常に「実務に沿った」お話で、納得しやすい内容が多かったの。正直なところ、学者先生だってことだからあんまり期待してなかったんですけれども。やっぱり「現実の泥を知っている」人は一味違うわぁ。
あたしとしては、多分今回のメンバーで一番共感しやすい人だわね。


三番手、丸山 宏(日本IBM)さんの「P2Pにおいて不正コピー防止は可能か」。あたし的にはちょっと…って感じだったわ。企業系の人間なので、ある程度までの考察はすごく面白いの。でも、結局話を聞いていると「素晴らしい技術なんだからまず何とかしようじゃないか」っていうあたりが土台になっているのが非常に気になったわ。結局、研究畑の人間なのねぇ、って感じ。


法律家の一番手は岡村 久道(弁護士/近畿大学)さんで「ネットを用いたP2Pファイル交換をめぐる日米における従来の裁判の動向」。非常にわかりやすくて、法律家としての立場を前提にしたうえで素敵な内容だったと思うわ。「今までの関連性のありそうな事件」をまとめた上で「Winny事件の論点」を法律家の視点からまとめている、っていうあたりの仕上がりのうまさも共感を覚えるの。
辛らつで身も蓋もない、現状の法律や裁判所まわりの問題点を発言していたのも好印象だわ。


二番手、壇 俊光(弁護士/北尻総合法律事務所)さんの「P2Pソフトウエア(winny)開発者の刑事責任に関する問題点」。あたし的には一番NGだったわね。Winny弁護団に関わってる、っていう自己紹介だったんですけれども。まぁ確かにそんな感じだったわ。
なんていうのかしら。立場的に「弁護する」立場にあるっていうのももちろんわかるんですけれども。全体的に「全面的に擁護されてしかるべき」みたいな内容で始終一環されていて、聞いていて正直なところ、戦時中の放送でも聞いているかのような印象だったわ。


法律家のラスト、落合 洋司(弁護士/イージス法律事務所)さんの「Winny(幇助)事件・・・公開情報から見た権利団体の見解等について」。なにが笑えるって、関連団体が一人も足を運んでこないあたりが笑えてならないわ。関連団体の連中が、いかに今回の件を「低く冷ややかに見ることで沈静化させてがっている」かがわかろうってもんだわね。
内容は…まぁありきたりだったかしら? 疑問点の提示はいいんですけれども、あたし的にはもうちょっと多岐にわたる切込みをしていただきたかったと思うわ。


んでパネル討論…の前に、一番目の宇田さんが講義で帰られてしまうっていうんで、代理の瀬川 典久さん(岩手県立大学)が簡単に「Winnyに関しての考察」ってのをやったんですけれども。正直いけてない外見の方だったんですけれども(もう少し髪型変えて、背筋を伸ばしたほうがいいわ)、内容は非常によかったわ。なにがよかったって言って「現在の技術者は、法律にある程度の見識を持たなくてはいけない。が現実に持っている人間はほとんどいない」という部分をきちんと切り込んでいる部分。現状をきちんと捉えている素晴らしい発言だと思うわ。


パネル討論は…質問者たちのタルい質問にいらいらしてたわ。概ね「しゃべっているうちに話がそれてきちんと結論にたどり着けない」連中が多すぎるってこと。思いつきのまま発言して混迷して、って感じが多くの人から受けた印象だわ。もう少し「現在何を議論していて」「自分は何を言いたくて」「そのためにどのような背景説明が必要なのか」っていう部分を練ってから発言して欲しいものだわね。
おかげで、最後にあたしが一言言いたくて手を上げて、スタッフからマイクまでもらったのに発言できなかったわ。


話をしていて、やっぱりって感じの部分の一つは、弁護士の岡村さんがおっしゃってたんですけれども「どこで線を引くか」っていうお話。明確に白だったり明確に黒だったりするものって結構少ないわ。じゃぁ今回の事件を、それぞれの角度から眺めて「どこで問題点という線を引くか」っていうのは常に議論されるべきだと思うの。あたしとしては「法律家としての見解」を是非きいてみたかったんですけれども、そのあたり、もう一つはっきりおっしゃっていただけなかったのが残念だわ。まぁ立場とか色々あると思うんですけれども。
線引きの話をすると。中間マージン搾取業者は、当然可能な限り「封じ込めたい」方向性に線を引いてくると思うの。ところが、これに対抗する連中がまた「技術の素晴らしさだけを推した」ところに線を引くから、会話なんて成り立つはずもないわ。この平行線の議論が平行線である限り、あとは「力こそ正義」よ。そうして、大抵の場合、業者のほうが政治力も財政力もあるの。世論なんて簡単に操作できるわ。つまり、このままじゃどの道、負け戦なのよね。そのあたりちゃんと弁えているのかしら?って感じだわ。


匿名性の話も出て。まともな話が出た瞬間、壇さんの発言が数歩引いたように感じられたのが面白かったんですけれども。そのあたりの議論ももう一つ論旨が甘いわよね。
いくつかのレベルの匿名性とその必要性、については高木先生(id:HiromitsuTakagi)のPageに以前書かれていたものがあるから、そっちを見て頂戴。


ちなみに、高木先生もお見えになっていたみたいで。綺麗にまとまった発言をなさっていたのはさすがだと思うわ。少なくとも、全体を通して言いたいことの流れがちゃんとあったんですもの。


で、あたしが発言できなくて、あの場にいる全員に言いたかったのはこんな内容なの。
P2PWinnyをいっしょくたに語らないで頂戴」
P2Pの技術は、確かに今後伸ばしていくことに意味があるかもしれないものである、っていのには賛成だわ。そうして、P2Pのなかでも、中央サーバを持つようなタイプと比較して、Winnyのような「完全分散型」のほうに、いくつかのメリットがあるっていうのもわかるの。でもだからって「Winnyそのもの」を伸ばしていくかどうか、っていうのはまた別問題だわ。
なのに、パネリストですら、その辺をきちんと区別せずに発言しているようにしか聞こえないのよね。
だから、「P2Pの技術っていうのは素晴らしいし、それは重要ですよね」っていう話が、いつの間にか「Winnyって素晴らしいし、それは重要ですよね」にいとも容易く摩り替わっていくの。このあたりをきちんと意識して、切り分けて議論しないと意味がないわ。
あたしは、P2Pが一つの「データの配信形態」として注目されている理由はある程度理解できるの。そうして、中央にサーバを持たないWinnyのような「分散型」の形式が、中央サーバを持つ形式に比べて利点があることもわかるわ。さらにWinnyが検索性能という点において、「中央サーバを持たないのに」よい性能を出している素晴らしいものである、っていうのも理解できるの。でもそれと「だからWinnyは素晴らしい」って発言は完全に別問題だわ。
あたしは端的に言って「匿名性」の観点から、Winnyは最低のソフトだと思っているの。弁護士の先生たちは頑張って言いつくろってたけれども。あれってどこからどうみても「著作権上違法なファイルを交換したい」ってのが、47氏の本音よ? SoftEtherと同様、あたしは開発の「根っこの部分の精神」を基準に、アレは限りなく黒いソフトだと思っているの。


まぁああいった場所ですし、ある程度「本音が踏み込めない」部分ってあると思うんですけれども。もう少しきわどいところまで切り込んで欲しかったと思うわ。
でも、今後の展開が楽しみなワークショップではあったわね。